5ちゃんねる ★スマホ版★ ■掲示板に戻る■ 全部 1- 最新50  

■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

まやかし

1 :麻生 泉:2008/06/22(日) 00:27:02
「かしまし」のパロ小説です。
ちょっと学問的な味付けをしてみました。
研究の合間に、軽く読んで頂けたらとか、思いますが、
文学部じゃないので、できはいまいちかなあ?
がまんしてくださいね。



 

2 :名無しゲノムのクローンさん:2008/06/22(日) 00:30:55
「まやかし」

第1章 事件
 第1回  「失恋」
 第2回  「帰宅」
 第3回  「検査」
 第4回  「休暇」
第2章 女の子に!
 第5回  「制服」
 第6回  「始業式」
 第7回  「水着」
 第8回  「ドレス」
 第10回 「戸籍」
第3章 恋愛
第4章 結婚






3 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 00:40:04
 どれくらい時間がたったのだろう。
 都会の駅の待合室の顔ぶれも、買い物客から学生、勤め人、酔客へと変わっていった。
「花野下行き、最終急行、まもなく入線します。」
 ちょっと物憂げなアナウンスが、電車の到着を告げていた。
 ふと、我に返って、真紀(まさのり)は、立ち上がった。
 22時32分、待ち合わせ時間からは、もう9時間がたっていた。
 ホームの待合室は、冷房が効いていて、快適ではあった。
 しかし、彼の寒々とした心には、その冷房はかえって酷でさえあった。
 中3夏休み最後の土曜日、彼は、かねてから、思いを寄せていた絵美(えみ)にデートを申し込んでいた。
花柄のきれいな便せんに、精一杯の言葉を連ねて
 人は、本当に哀しい時、泣けないという。
 1本前の、座席指定特急が、がらがらの車両を横付けしたとき、
 彼は、あの中で、思いっきり、泣けたら、べそをかけたらとおもった。
 それでも、ひょっとして、絵美が来てくれるのでは・・・
 そんな思いが、彼を待合室に閉じこめていた。
 しかし、この電車を逃すと、自宅に帰れない。
 真紀は、よろよろと、電車に乗り込んだ。


4 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 00:46:14
第1回「失恋」

 電車の扉に身をもたせながら、彼は、3年間を振り返った。
 絵美とはじめてあった入学式、
 彼女が家庭部にはいるときいて、家庭部・男の子1人でがんばったクラブ活動
 あれは、真紀と一緒にいたいだけでなくて、生まれつきのエプロン好きもあったんだよね、
 そんな彼を上級生の女の子の好奇の目や、ちょっと陰湿ないびりから、
 守ってくれたのは、絵美だった。
 いつしか、彼は、絵美に淡い思いを抱くようになっていた。
 公立中学では、中3の夏休みで、クラブ活動は、終了する。
 クラスの違う絵美とは、廊下くらいでしか、あえない。
 真紀は、さんざまよったあげく、手紙を書くことにした。
 一駅一駅、乗客は減ってゆき、空席が目立ちはじめた。
 しかし、真紀は、座る気にもなれず、回想にふけっていた。
 このまま、電車が走り続けてくれたらいい、どこまでも、どこまでも・・・
 そんな思いが現実になるはずもなく、夜半前、電車は終着駅に着いた。
 バブル最後の頃、真紀の一家が購入した家は、ここから、さらに20分、
さびしい郊外の道を歩いたところにある。
 花野台という地名が嘘ではない、山の中だ。
 ただし、自然に山野に咲く花でいっぱいということなのだが、
 真紀が、歩き始めると、稜線の向こうに、流れ星が、濃い輝く緑色の線を描いた。 
 きれい・・・
 迷惑だったんだよね、怒ってるよね、絵美さん、絵美さんの機嫌がなおってくれますように、
 願い事を唱え終わったとき、彼のまわりを、一瞬、濃い緑色の光が包んだ。
 それが、とんでもない物語のはじまりとなることも知らず、真紀は気を失っていた。


5 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 00:48:45

第2回「帰宅」

 気づいたとき、真紀は、自宅の前に立っていた。
 遠くに、山の向こうの、川沿いの町並みの明かりが、かすかに見えた。
 高台というか、坂の上というか、山の上の、真紀の家からは、
 かなり遠くの町並みまで、見通すことができた。
 その明かりも、この時間には、まばらになっている。
 明かりがにじんで来たのは、真紀の涙腺がゆるみ始めたからかもしれない。
 呼び鈴を押す、
 心配そうな母親の顔をみたとき、真紀は、わっと、母親の胸に顔をうずめていた。
「おかえりなさい。」
「た・・た・・ただいま・・・」
 中学生としては小柄な真紀は、まだ、長身の母親の身長に達していない。 
 そのため、幸い、真紀は、怪訝そうな母の表情に気づくことはなかった。
 しばらくして、泣き疲れたように、真紀は口を開いた。
「お風呂に入りたい。」
「それは、やめたほうがいいわ。すぐ、眠りなさい。」
「えっ、いやだ。お風呂はいる。」
「大丈夫?」
「えっ、何が?大丈夫だよ。お風呂くらい。」
 そういうが早いか、真紀は、浴室に向かった。
 真紀が卒倒したらしい音と、何とも形容しがたい真紀の悲鳴が聞こえたのは、その直後のことである。
「小心なあなたには、少し刺激がきつすぎたのよ。だから・・・」
「おかあさん、ナイーブって、言い直して欲しいな・・・」
 真紀の意識は、再び、遠のいていた。


6 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 00:50:04
「真紀は、どうしてる?」
真紀の父・茂は、心配そうに尋ねた。
「さっき、のぞいたときは、すやすやと眠っていました。」
母・啓子は、疲れた表情で、会話を続けた。
「お昼前に、好きな子とデートの約束したんだって、よろこんで出かけた男の子が、
どうして、真夜中に女の子になってかえって来るんですか、失恋で当然変異とか、
失恋の腹いせに、豊胸・整形・性転換の手術を、日帰りでやってくれる病院なんてあるんですか、」
啓子は、いつになく、いらいらしていた。
「ようやく、あの子も、男の子らしくなってくれたって、よろこんでいたのに・・・」
茂が、ようやく重い口を開いたのは、啓子がまくし立てた後である。
「君も、医者の妻なら、落ち着いて、聞いてくれ。」
「真紀が、クラインフェルター症候群であることは、生後すぐの検査で分かった。この病気は、本来、減数分裂すべき性染色体が、倍数分裂をし、
生まれてくる子供は、余分なX染色体を持ったXXY型の男児となる。そして、やさしい女性的な性格を持つに至る。」
「そのことは、真紀が、花の刺繍のついたフリルのブラウスとか女の子の服を着たがったときに、説明してもらいました。覚えてます。」
「そして、思春期は、通常の時期に訪れるが、ひげの成長はなく、むしろ胸が少しふくらむんだ。」
「そういえば・・・小6の時、胸にしこりがあっていたいとかよく言ってました、そして、しばらくしたらふくらんできて、75AAAのブラを・・」
「買ってやったのか?」
「ええ、すごくよろこんでましたけど。さがすの、大変でしたよ。」
「その程度の話だと、まだ、笑い話ですむんだが・・・」
茂の表情は、幾分、暗くなっていった。


7 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 00:51:36
「胸は、少し成長するが、精巣は、成長しないことが多い。その結果、生殖能力に欠けた大人になる。
それだけでなく、甲状腺機能低下、慢性肺疾患、静脈瘤、乳癌などの罹患率も高くなる。 」
「それは・・・、私も調べて知っていました。だから、あの子の好きなように、エプロンでも何でも、
家の中では、着ることを許してきたんです。最近、悪賢くなって、エプロンドレスとかいって、
ジャンパースカート着てたみたいですけど・・・、でも、ある日、突然、女の子になるってことがあるんですか、」
「それは、何ともいえない。明日、うちの大学の付属病院で検査してもらおう。」
「あなたの大学の?三流大学付属病院?」
「ちがう。山稜大学だ。医者はともかく、機械は最新のをそろえてある。」
「はあ、・・・あまり気乗りしないんですけど。」
「とにかく、休もう。親は子を選べないが、子は親を選んで生まれてくるっていうじゃないか、
君と俺だから、あの子を、無事ここまで育てたんだし、これからも、きっと、大丈夫だ。」
 真紀にとって、そして、茂と啓子にとっても、長い一日が終わろうとしていた。


8 :連載小説:2008/06/22(日) 00:52:51

第3回「検査」

山の中の花野台では、夏の朝ともなると、
うるさいくらいに、いろいろな鳥たちがさえずり始める。
「おはよう、真紀(まき)」
真紀が目覚めたとき、心配そうな母の顔が視界に入った。
「えっ、ぼく、真紀(まさのり)だよ。」
「そう、昨日まではね。」
真紀が、母の言葉を理解するまでに、かなりの時間がかかった。
シャワーを浴びるために、浴室にはいって、今度は卒倒こそしなかったものの、
真紀はしげしげと自分の身体が女の子の身体になったことを自覚した。
そして、シャワーそっちのけで、鏡に映った自分の姿を観察し始めていた。
「早くしなさい。」
「はあい。」
真紀がシャワーを終えて外に出ると、当然のことながら、女の子の下着を持った母の啓子が立っていた。
「本格的なブラって、つけるのはじめてよね。」
「うん、小6のは、あてるだけって感じだったから。」
「いい、肩ひもを肩にかけて、大まかにストストラップの長さを調節する。」
「身体を前に倒して、カップを乳房にあわせてっと、そして、背中のホックを留める。」
「身体を前に倒したまま、片方ずつ乳房を脇から中心に引き寄せる。」
「お母さん、こそばゆいって、あっ」
「どうしたの?」
「お乳のてっぺん、さわるから、その・・・」
「ごめんなさいね。乳房がカップの中にきっちりおさまったわね。オッケイ。」
「最後に、身体を起こして、ブラの下辺が地面と平行になるように、ストラップの長さを整えて、はい、完了。」
「どう、付け心地は?」
「うれしいような、すごくはずかしいような・・・」
「そう、いやじゃなくて、よかった。」
母の啓子が、恥ずかしがりの真紀のことを考えて、白で統一した、ブラ、ショーツ、ワンピース
を身につけて、真紀の女の子としての1日目が始まった。


9 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 00:53:41
花野下の駅までは、ゆるやかな下り坂になっていて、桜の緑陰が涼しげな歩道をおおっている。
時々、突風が吹くと、真紀のフレアーのワンピースが、風をはらんで、めくれあがり、
真紀は、そのたびに、両手で裾を押さえなければならなかった。
「いつのまにか、女の子らしい仕草が身についてるじゃない。」
啓子が笑っていうと、真紀がにらみつける。
「おかあさん、わざと、このワンピにしたんだよね。意地悪。」
「そんなことないわよ、これまで、男の子なんだからキッロットタイプまでって、
そのことに、さんざ、文句言ってたのは、誰だったかしら」
「女の子って、思ってたより、大変なんだね。」
夏休み中とはいっても、電車は、すいていて、冷房がきつすぎるくらいだった。
山稜大学付属病院は、外観は立派である。内容も充分立派だと真紀の父・茂は、豪語しているが、
真紀は、そして、啓子も、にわかには信じていない。
「綾瀬真紀さんと、お母さんの啓子さんですね。高島です。」
担当してくれるのは、まだ若い女医の高島瑤子だった。
凛とした、知的な美しさに、真紀は、ちょっとときめきに似た感情を抱いた。
木目調の落ち着いた内装の廊下に、3頭身くらいの可愛いナースのキャラで診療科や案内が展開されている。
「この小女趣味って、お父さんの趣味?」真紀が尋ねる。
「まさか、理事長さんの趣味ですよ。」高島がやさしく答えた。
検査は、身長、体重、血液、レントゲンと順調に進んだ。母の啓子は、ロビーでくつろいでいる。
最後の検査室に入った時、真紀は、凍り付いたように、歩みを止めた。




10 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 00:54:49
それは、普通の15才の女の子なら、まず、目にすることはない
婦人科の診察室そして、検査用の椅子だった。
「あれに、座るんですか・・・」
真紀の声は、少し、ふるえているようだった。
「大丈夫、麻酔、かけるから、こっちで、横になって。」
高島は、普通のベッドに、真紀を横たわらせた。
麻酔が効いてきたのを見計らって、検査は、はじまった。
真紀の両手・両足は、検査台にベルトで固定された。
入念な乳房の触診、真紀の女の子の部分の外部から、内部、拡張検査
「かわいい、顔、だんだん赤くなってきましたよ。」
「感じやすい子みたいですね。液体もたっぷり出てます。ほら、先生。」
「これだけ出たら、検査器の挿入の痛みも少ないでしょうね。」
看護師のよけいなおしゃべりを「しっ」と制すると、高島は、黙々と検査を続けた。
しかし、真紀にとつて、不幸だったのは、検査中、わずかに意識が残っていたことだった。
会話の一部始終、両手足を固定されてしまう拘束感、
信頼できる、尊敬する人にもっとも恥ずかしい部分をみせてしまうはずかしさ、
真紀は、うっすらとした意識の中で、それらが、少し甘くてせつない感情に変わっていくのを体験していた。
検査は、予定通り、無事終了した。
母の啓子がにこやかに、ロビーで迎えてくれた。
「よくがんばったわね、何でも買ってあげる。」
「ほんとに?約束だよ。おかあさん。」
啓子がしまったと思ったときは、もう遅かった。
真紀は、これまで、エプロンも白と寒色系しか許してもらっていなかったので、
赤、ピンク、パステル調と、何枚もエプロンを買い込み、
夏物一掃セールのコーナーでは、ブラウス、スカート、ワンピースをめいっぱい
買い込んだ。そして、秋に備えて、可愛いセーターも買うのを忘れなかった。
その日の夜、真紀が、買ったばかりのブラウス、スカートの上に、淡いピンクのエプロンを着て、
啓子と台所に立って居るのを見て、
父・茂は、真紀の適応の早さに安堵した。
そして、同じ料理でも、娘になった真紀が作ってくれた今日の料理を美味しく感じる自分に苦笑していた。



11 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 00:56:28

第4回「休暇」

夏休みも、終わり頃になると、どことなく寂しい雰囲気になってくる。
真紀は、小さな頃、それは、夏休みが終わるからだと思っていた。
しかし、今は、夏の終わりが、秋の始まりであり、雲、空、風すべてに、秋の気配が、ひそやかに包み込まれているからだということを
感じている。
真紀は、ベッドから、広い窓ごしに晩夏の青空を見ながら、ささやかな感傷に浸っていた。
ごろんと横になって、すごすこんな時間が、真紀は、好きだった。
「おはよう、真紀(まき)いる?お母さんに聞いたけど、大変だったってね。」
「えっ、うわあ。」
反射的に、真紀は、シーツを身に纏っていた。
「その仕草、かわいい、でも、女の子なら、きゃっとか、いうもんだよ。」
闖入者は、真紀の失恋の相手・有栖絵美である。
真紀は、うろたえながらも、なんとか、平常心を取り戻そうとした。
「あ、あの、手紙のこと、ごめんなさい。気にしないでね。」
「あ、あれね。うれしかったよ。だって、はじめてもらったラブレターだもん。」
「よかった。怒ってるかと思ってたから、ごめんなさい。」
「ただ、花柄の便せんに封筒って、花好きの真紀らしいと思って、今時、メールだよ。
で、真紀、携帯、どうした?何回かけても、通じないし、急用で待ち合わせ場所に行けなくて、
ごめんというメールも、読んでくれてないみたいだし。」
真紀は、急いで、携帯を取り出した。
「電源、切れてる・・・」
「こらあ、心配したんだぞ。」
「ごめんなさい・・・じゃあ、失恋じゃなかったんだ。・・・」
真紀のほほに、うれしい涙が、一筋の線を描いた。
「相変わらず、泣き虫だなあ。失恋じゃない。失恋なら、心配して来たりしない。」
絵美は、断言した。 



12 :名無しゲノムのクローンさん:2008/06/22(日) 00:57:22
「そろそろ着替えたら」
真紀の抵抗を無視して、絵美は、シーツをとりはらった。
そこには、胸元に可愛いリボン、レースとリボン飾りをふんだんにあしらった
純白のネグリジェ姿で、女の子座りをしている真紀がいた。
「そういう、高原の朝みたいなっていうか、新婚旅行用っていうか、そんなのが好きだったの?」
「・・・うん、一度、着てみたかった。・・・」
「そう、女の子になれて、よかったね。」
「・・・・」
真紀が、複雑な表情に変わったので、絵美は、しまったと思った。
「ごめん、ごめん。明日、始業式だね。明日からのこと、相談しよ。」
「え、相談に乗ってくれるの?」
「ただし、読書感想文の代筆が条件」
「いいよ、」
「じゃ、書き終わったら、わたしんちで、相談しよ。」
「うん。」
真紀は、絵美とここまで親しく話したのが、はじめてだったこと
そして、お互いの部屋をたずねあうのも初めてなのに気づいた。
同性か、異性かの違い、壁のようなものって、やっぱりあるのかな・・・




13 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 01:03:02
真紀の父・茂の研究室からも、日々、秋らしくなってくる空を望むことができた。
「教授、この顕微鏡をのぞいてみてください。」
助手の高島瑤子が、茂に呼びかけた。
「ああ、性染色体XX、女性の、何の異常もない染色体だね。」
「お嬢さんの、綾瀬真紀さんのですよ。」
茂は、狼狽した。
「XXYからYが完全に消え去る、医学的に説明がつかない。」
「そうです。XXの場合で、遺伝情報量で、男女差がつかないように、片方のX染色体が不活性化することは普通にあります。」
「そうだね、だから、私も、何らかの理由でY染色体が不活性化したものと思っていた。」
「違います。お嬢さんは、完全に女性です。診察の所見でも、女性器に異常は、まったくありません。」
高島は、断言した。
「お相手にさえ恵まれたら、月並みな表現かも知れませんが、玉のように元気な赤ちゃんを産むことができるはずです。」
「君も知ってるだろうが、あの子は、病弱で、とても、・・・」
「いえ、お嬢さんは、元気な、健康な15才の女の子です。この検査結果表をご覧ください。」
茂は、高島から渡された1枚の表に目を落とした。
1年前とは、全く違う、別の子の表としか思えない数字が、そこには並んでいた。
高島に背を向けて、窓を見上げている茂の目にも、光るものがあった。


14 :名無しゲノムのクローンさん:2008/06/22(日) 12:49:48

第2章「女の子に!」

第5回「制服」

桜の葉が、落葉樹のなかでは、一番はやく秋の訪れを知らせてくれる。
真紀が、見上げた桜の木には、すでに、黄色から茶色へと色を変えていく葉が何枚もついていた。
空き地の多い、花野台の街路を、少し歩いたところに、絵美の家はあった。
真紀にとっては、はじめて、家の中に入る日である。
「おしゃれしていかないと、好きな人のとこいくんでしょ?」
「うん、まあね。」
よくわからない、母と真紀の会話の末、
真紀は、ラベンダーブルーのワンピースの上に、純白のフリルエプロン、リボンのついた麦わら帽子
といういでたちで、やってきた。
「おじゃまします。こんにちわ。」
「いらっしゃい、わっ、高原の昼みたい。」
少し笑いをこらえて、出てきたのは、絵美である。
「だつて・・・」
「その姿は、これから、昆虫採集にいく小学生の女の子だよ。網かそうか?」
真紀がだまってふくれると、絵美は、いっそう笑いをこらえた。
ちょっと、大人びた色のワンピースでも、エプロンを組み合わせてしまうと
とたんに子供服になってしまうということを、真紀の母は、気づいていなかった。
しかし、よごすといけないからと言って、エプロンを着たのは、真紀だから、母親を責めるわけにはいかない。
「どうぞ」
絵美に案内されて、真紀は、部屋に入った。
甘すぎない、華美でない、落ち着いた、それでいて清潔な感じの部屋に、
真紀は、絵美の人柄を感じていた。


15 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 12:51:59
「絶対、普段着で来るとおもっていたけど、大丈夫だった?女の子の服で?」
「うん、まあね、お母さんが、よろこんでご近所にいいふらしてあったから、ほんとは女の子だったって、」
「学校も、そんな風にいけるといいんだけどね。」
絵美が、少し思案げな顔になった。
「お父さんが、一応、話はしてあるんだけど・・・」
真紀も、不安げに答える。
「不安だよね。」
「うん」
「でも、なんとかなるよ、ところで、読書感想文、書いてきてくれた?」
「はい、これ。」
真紀が、封筒に入れた原稿をさしだすと、絵美は、うれしそうに受け取った。
「まさか、若草物語とか赤毛のアンとか、氷室冴子、唯川 恵とか、およそ、私の読みそうにない本、選んでないよね。」
「よく、ぼくの愛読書知ってるね、絵美ちゃん。」
「3年も、一緒にいると、だいたいはね・・・」
「純文学、国語は年配の女の先生だし、堀辰雄「風立ちぬ」、恋に恋する感じで、可愛くまとめといたよ。」
「それって、代筆がばればれじない?」
「大丈夫、かなり、たどたどしい感じで書いたから、」
「言ったな、このう」
絵美が笑いながら、ベッドに軽く腰かけていた真紀を押し倒した。
不意をつかれた真紀が簡単にベッドに倒れ込んだから、絵美は勢い余って、その上におおいかぶさる形になった。



16 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 12:52:58
・・えっ
真紀は、状況がよく分からなかった。
起きあがろうとしても、絵美の身体がおおっていて、
しかも、両手の腕の部分を、絵美の手がしっかり押さえていた。
最初、真紀は、その手を振り払おうと、力をこめたが、
家庭部のほかに、テニス部で鍛えた絵美と、体育のほとんどを見学で過ごした真紀の力の差は、歴然としていた。
力を込めるほど、それ以上の力で押さえつけられた。
・・・・・
何か、言おうとしても、お願いしようとしても、言葉にならない。
真紀は、あきらめて、静かに手の力を抜くと目を閉じて、唇を少し上向きにした。
しばらくして、絵美の唇が、真紀の唇に、軽く重なった。
リップクリームだろうか、かすかに、いい匂いが漂ってくる。
心臓が、エプロンの胸当ての下で高鳴っている。
たぶん、絵美にも聞こえているに違いない。
・・・恥ずかしい、キスくらいで・・・
真紀の顔が、紅潮しているのが真紀自身にも分かった。
どれくらいの間、キスしていたんだろう、
絵美の唇が離れると、真紀の身体に覆いかぶさっていた絵美も離れていった。
「もういいよ」
絵美の声で、真紀は、目をあけた。
「あ、あの、変なこと言ってごめんなさい。これから、気をつけるから。」
真紀は、絵美が怒ってしたことと、思っていた。
「そうじゃないって、ファーストキスだよ、私の」
「ぼ、ぼくもはじめて、」
真紀は、絵美の笑顔にほっとしていた

17 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 12:53:57
「これ、読書感想文のお礼」
絵美が、真紀に、手渡したのは、二人が通う花野中学校の女子制服のセーラー服夏服とスカートである。
「それ、私のお古だけど、女子の制服って、個人差が大きいから、採寸してオーダーだから、間に合わないよね、」
「うん、それで、今日、電車で街に出て、似たようなの探そうと思ってた。」
「いつも、無計画」
絵美が、つっこむ。真紀は、また、黙ってふくれた。
「お母さんには、さっき伝えてあるから、着替えに上下2つずついれといたよ。」
「でも、絵美ちゃんのは?」
「あ、中1のとききてたのだから、あれから、胸が成長したもん、ほれ、Cカップ」
絵美は、真紀の前で胸を誇示して見せた。
真紀は、自分の胸と見比べて、
・・・女の子なら、悔しいだろうな、
と思いながら、実感のわかない自分がこっけいで、おかしかった。
「一度、試着してみて」
「え?なんか恥ずかしい。」
「サイズあわないと大変だから」
真紀は、納得して、エプロンをはずし、ワンピースのファスナーに手をかけた。
しかし、絵美の視線を感じてふりかえった。
「絵美ちゃん、やっぱり、恥ずかしいから、あっち向いてて」
「はいはい」
絵美は、苦笑して、真紀の言うとおりにした。
「ぴったりだね。」
「てことは、絵美ちゃんの中1の時と同じ胸なんだ、身体も・・・」
「これから、大きくなるから、大丈夫、だって、女の子になったばかりじゃない。」
絵美の変ななぐさめに、真紀も笑い出していた。



18 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 12:54:58
「真紀、エプロン好きだよね、つけてみて?」
「うん、絵美ちゃん、見てみたいの?」
「違う!」
真紀は、セーラー服の上から、エプロンをつけた。
「うちの中学校の制服って、セーラーの襟がこぶりなんだよね、だから、エプロンの上にスカーフが来る感じで、ちょうどいいの」
「エプロンが、ぴったり合うって、なんか、うれしい。」
「エプロン好きだよね、真紀、どうして」
「どうしてって、エプロン身につけると、やさしい気持ちになって、誰かのために何かしてあげたくなんない?」
「ぜんぜん、エプロンって、ただの作業着だと思うけど。」
「そうかなあ、でも、大切な制服ありがとう。大事に使います。」
「よかったら、冬服も探しとくね、下着もあげようか?」
「・・・・・・」
「冗談よ、じゃあ、この姿で、おうちまで帰ること」
「え〜」
「だって、明日からは毎日だよ、予行練習!」
「はい」
真紀は、さすがにエプロンははずさせてもらって、制服姿で家路についた。
行き交う人は少なかったが、やっぱり、恥ずかしくて、ずっとうつむき加減に歩いた。
数分して、自分の家にたどり着いた時、ほっとして、そして、疲れがどっと出てきていた。




19 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 12:55:41
絵美のお古のセーラー服をうれしそうに着て、帰っていく真紀を見送りながら、
絵美は、ちょっとした勝利の快感のような感情にしたっていた。
比較的豊かな家に生まれたひとりっ子の絵美は、
両親の愛情を一身に受け、欲しいものはほとんど手に入れていた。
小さい頃、絵美は、人形遊びが好きだった。
いつしか、物言わぬ人形に飽きて、生きたお人形、妹がほしくなっていた。
それも、従順で、素直で、それでいて、かわいい、生きたお人形
しかし、それはかなわなかった。
男の子の真紀には、ほとんど関心はなかった。
守ってあげたのも、好意というよりは、正義感からだ。
ラブレターも、かわいい文章がかける男の子という程度の感慨しかなく、
デートをすっぽかしたのも、用事があったのは事実だが、それ以上に気分が乗らなかっただけ、
しかし
真紀が女の子になったと聞いたとき、言いしれぬ胸騒ぎとともに、真紀の家にかけつけたのは、
そんな小さい頃の夢が、ひょっとして実現するかも知れない予感があったからだ。
そして、それは現実のものとなりつつある。
絵美のお古をよろこんで着ている真紀、
キスを拒まず、受け入れた真紀、
たぶん、拒否しても、力ずくでねじ伏せていたに違いない。
従順で素直な、絵美の生きたお人形の真紀、
絵美は、ふと、真紀との約束、始業式を無事に乗り切る方法のことを思い出した。
しばらくして、絵美は、担任の家と、真紀の小学校時代からの同級生である麻生俊樹の家に電話を入れていた。



20 :連衣装説・まやかし:2008/06/22(日) 12:56:48

第6回「始業式」

窓から空をながめてみる。
高い空に、薄くハケで描いたような雲が、秋の訪れを告げていた。
窓を開けると、山間部特有の涼気が、ひんやりしていた。
真紀が、ずっとこないといいのに・・・と思っていた日がやってきた。
始業式
夏までの男の子が、秋からの女の子と同じだなんて・・
説明がつかない。
真紀は、うんざりしながら、ネグリジェを脱いで、
制服に着替えはじめた。
セーラー服を、頭の上からかぶりながら、
小学生の頃、セーラー服って、どうやって着るのか、
疑問に感じたことを、なぜか、懐かしく思い出していた。
絵美にもらった半袖の夏服は、石鹸の香りがふんわりとして、
真紀は、少し気持ちが前向きになってきた。
左側のサイドファスナーをおろす、
スカーフを半折りにして後ろの襟から、少し出ていることを確認して
前のボタン止めした小さな筒状のところに通す、
そして、少しの抵抗感を押し切って、スカートをあげて、ホックで留める。
シャツとズボンに比べても、結構時間がかかる・・
ささいなことだけど、真紀は、あらためて、女の子って大変だなって、思っていた。




21 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 12:57:29
真紀は、姿見にうつった自分の姿を、確認した。
そこには、間違いなく、花野中学校の女子生徒がいた。
髪の毛は、散髪をやめたので、ショートながらも少し長めになっている。
冬までのばしたら、どこまでのびるかな?
リボンとか、したら、似合うかな?
セーラー服は、襟と袖が紺色で、そこに白い線が2本入っている。
スカーフは、エンジで、紺色の襟、白い生地とコントラストが効いている。
真紀の一番好きな色だ。
これは、学年別で、色が決まっていて、緑と焦げ茶がほかの学年である。
といっても、入学から卒業まで、色は変わらないしくみだ。
女子だけ色分けしているのも変だけど、
男子の制服では同じことができないからかもしれない。
真紀は、スカートの裾を、両手ですこしつまんで、左右に広げてみた。
そして、左足を少し後ろに引いて、ダンスの時とかの挨拶のポーズをつくってみる。
プリーツスカートは、大きく広がって、手を離すと、もとのプリーツに戻った。
なんとなくはずかしい・・・
しかし、真紀は、意を決して、一階へと降りていった

22 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 19:00:21
「おはよう」
「おはよう、お母さん」
満面に笑みをたたえて、母の啓子が、朝食を用意してくれている。
父の茂は、長距離通勤なので、この時間には、家をもう出ていた。
夏前と変わらないいつもの朝、
自分以外は何も変わらないことが、真紀を少しさびしくさせていた。
食べ終わる頃、元気のいい声が玄関からひびいた。
「おはよう、真紀いる」
「えっ」
絵美が、誘ってくれたのは、はじめて・・・
「あ、あの、おはよう、きのう、ありがとう」
「ちゃんと、制服着れたんだね、よかった、よかった」
「え?」
「今日、ちゃんと登校の準備できてるか、心配したんだぞ」
「あ、ありがとう、ぴったりだし、着心地もいい」
「学校まで、車、お父さんが送ってくれるからね」
「絵美ちゃんのお父さんが?」
「そう、たまには、父親らしいことしたいんじゃない、それとも、真紀の制服姿が見たいのかもね」
そういうと、絵美は、少しいじわるそうにほほえんだ。
「え?」
真紀は、顔をあからめた。


23 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 19:01:00
真紀が、絵美の父に初対面の挨拶を丁寧にしているうちに、
車は、静かに走り始めた。
絵美は、真紀とはじめてあった日のことを思い出していた。
1年生の4月、各クラブの個別説明会の日、家庭部の会場・家庭科室
説明前に、3年生の女の子が、真紀に近づいていた。
「興味本位で、入ってこられると、困るのよね」
絵美は、あまりの挨拶に、びっくりして、振り返っていた。
「男の子なんて、これまで1人も入ったことないのよ、彼女でも探しに来たの」
3年生の先輩は、真紀の前で、腕を組んでいた。
真紀は、下を向いたまま、黙っている。顔色が少しよくないように見えた。
絵美は、その3年生の3−2というクラスの表示をとっさに読み取り、声をかけた。
「先輩、3年2組でしたよね」
絵美は、その3年生と真紀の間に、入っていた。
「そうだけど」
「私、担任の山田先生に懇意にしてもらっていて、中学に入ったら、何でも相談に来なさいって」
「それがどうかしたの」
「いいですか、私の誘った大切な友達に、今みたいな性差別の暴言吐いてたってこと言っても」
「な、な・・」
「県立高校の進学校って、内申書大事ですよね」
勝負はついた。その3年生は、真紀に捨てぜりふを残して教室の前に戻っていった。
「あなた、ずいぶん腕のいい用心棒雇ってるのね」
時代がかったせりふに、絵美は吹き出しそうになった。
すべて、絵美のはったりだった。
山田先生には、そのあと、挨拶にはいったが、はじめて会う先生だった。




24 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 19:01:40
「あ、あの、ありがとうございます。」
真紀が、ようやく口を開いた。絵美が小さな声で、答える。
「こわかった?女の子が全部、あんなんじゃないから、ね」
「はい。綾瀬真紀です。よろしく。」
「私、有栖絵美、でも、どうして家庭部に?」
「あ、あの、僕、病気がちだし、一人でも生きていけるようにって、思って、それと、エプロンが好きなんです。」
守ってあげたい・・・
絵美が、はじめて感じた感情だった。
あれから、2年半、こんな日が来ることは、予想もしていなかったが、
絵美には、うれしい誤算だった。
今日が、絵美にとっても、一番大切で大変な日なのかもしれない、
ベストではないが、ベターなシナリオは、用意した。
2年生後期に、生徒会長をした縁で、学校当局の全面的な協力も取りつけた。
男女混合名簿、真紀の名前の読みだけが変わることに、事務室は、ほっとしていた。
あとは、真紀次第、真紀は、緊張して、押し黙っている。
しかし、夏までと違って、顔色はほのかに赤く、元気な女の子そのものである。
絵美は、真紀の手に、やさしく自分の手を重ねた。
「大丈夫、きっとうまくいくから、ね」
「絵美ちゃんの手って、あったかい」
学校が近づいてくる。絵美でさえ、少し緊張し始めていた。




25 :連鎖小説・まやかし:2008/06/22(日) 19:02:18
車を降りて、校門に入ると、担任の鈴木先生が走ってきた。
中年女性の豪快な走りは、やっぱ迫力あるなぁと、絵美が感心していると、
走りながら、鈴木先生、声をかけてきた。
「あ、綾瀬さんは校長室へ、有栖さんは、教室に」
君からさんに呼びかけが変わったことにも、
女の子になった実感を、真紀は感じていた。
「校長室ですか?」
真紀が、怪訝そうに尋ねる。
そう、すべて、シナリオ通り、絵美は安心した。
「じゃ、真紀、がんばってね」
「え?」
なにをがんばるんだろう・・・
校長室、滅多に入ることのない部屋に、真紀は、おそるおそる入っていった。
「おはよう、綾瀬さん」
「おはようございます」
挨拶をかわしたあと、真紀は、校長先生と何を話したのか、
緊張のあまり覚えていない。あたりさわりのない会話の後、
校長先生に、付き添われて、始業式の会場・講堂へと向かった。
「校長先生のお話の前に、今日からみなさんと一緒に勉強する転校生を紹介します。」
真紀は、他人事のように、聞き流していた。


26 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 19:03:08
「あやせまきさんです。じゃあ、綾瀬さん、ひとこと」
えっ・・・
なぜ、僕が転校生?
真紀は、壇上から、絵美を探した。絵美は、訳ありげに、ほほえんでいる。
真紀は、とっさに、すべて理解した。
でも、これって・・・
これって、まやかし、完全なまやかしじゃない?
「は、はじめまして、あやせまきです。半年という短い間になりますけど、
 みなさんとなかよくすごせたらと願っています。どうか、よろしくお願いします。」
おきまりの拍手の後、真紀は、3年1組の列に入った。
始業式は、佐藤校長先生の簡単なお話、生徒指導担当の先生の諸注意で、簡単に終わった。
教室に戻っても、真紀は、どうしていいかわからず、一人座っていた。
真紀にとって、救いだったのは、意外とクラスメイトの視線があたたかいことと
男の子の頃のこと、真紀が女の子になったことを誰も話題にせず、ごく自然に時間が流れていることだった。
「はじめまして、麻生俊樹です。学級委員してます。」
表情は、ずいぶんまじめだが、目がにこやかに笑っている。
小学校、いや、幼稚園からの幼なじみの挨拶に、真紀も吹き出したくなるのをこらえた。
「はじめまして、綾瀬真紀です。」
「綾瀬さん、家近くだよね。夜、遅くなるときとか、お送りするから、声かけてください。」
送りオオカミという言葉が、真紀の脳裏をかすめた。
誰だっけ、夏前まで、エロ本・DVD、必死に勧めてくれてたのは・・・
「あ、ありがとうございます。」
真紀は、にこやかにほほえみ返した。
「いえいえ、有栖さんからも、よろしくって頼まれているので」



27 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 19:04:06
絵美は、3年2組の教室で、真紀のことを、少し心配していた。
始業式前の30分間で、各学年2組ずつ、合計6組で、
真紀のことを特別扱いしたり、興味本位で接しないよう、
少数者の人権について、性差のことについて、各担任が特別に話をしている。
そして、真紀が夏前の男の子とは、別の女の子の転校生という虚構のねらいも、
中学生くらいの年代なら、この少し子供じみたお遊びに、乗ってくるという自信もあった。
しかし、これから先は、わからない。
相手が、女の子なら、誰にも負けない自信が、絵美にはあった。
正論で、論破して勝つ自信、ときに、はったりも併用するが、
男の子が、どう動くのか、絵美には、理解できなかった。
もと男の子ということで、真紀に気軽にとんでもないことを・・・
という心配から、絵美は、小学校の柔道教室以来の友達の麻生俊樹に、
真紀のボディガードを依頼したのである。
ベストとは言えないかも知れない、しかし、ベターなシナリオ
絵美は、自分自身に言い聞かせた。

28 :連載小説・まやかし:2008/06/22(日) 19:05:02
帰り道、絵美は元気そうな真紀に、ほっとしていた。
「絵美ちゃん、あの、ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・」
真紀の真剣な表情に、絵美も真顔で答えた。
「何?」
「昨日、お母さんに聞きそびれたんだけど、女の子になって、まだ、ないんだけど、
 いつくるかわかんないんで、何を用意しておいたらいいか・・」
「昼用とか、夜用とか、サニタリーショーツとか、知ってる?」
「ぜんぜん、聞いたことある程度」
「胸はって、言わないの!じゃあ、一緒にいこうか、買い物」
「あ、ありがとう」
絵美は、真紀も、あの少しゆううつな時間を共有することになったことに、
小さな連帯感を感じていた。
その日の夜、絵美が呼び鈴に答えて、玄関に出ると、エプロン姿のままの真紀がいた。
白いブラウス、チェック柄のスカートに、淡いピンクのフリルエプロンと同じ色のずきんのまま、
「真紀、すごく似合ってる。うらやましいくらい」
香ばしい洋菓子の香りが、真紀の手の中の箱だけでなく、真紀のエプロンからも漂ってきている。
それは、どれだけ時間がかかったかを示してもいた。
「あの、今日いろいろありがとう、これ、お母さんと作ったお菓子、絵美ちゃんにたべてほしいと思って」
「ありがとう」
「あの、不慣れな転校生だから、これからも、どうかよろしくね。」
話しながら、真紀が、そして、絵美も、にこやかに笑いはじめていた。




29 :連載小説・まやかし:2008/06/23(月) 21:13:27

第7回「水着」

一雨ごとに、秋めいてくる、9月とはそんな季節である。
昨日の酷暑が嘘のように、肌寒い朝、
いつものように絵美の元気な声が綾瀬家の玄関に響いた。
「真紀、いくよ〜」
「あ、おはよう、いまいくから」
こころなしか眠そうな真紀の声が答える。
「雨降ったみたいだね。」
中学校への舗道が湿っているのを見て、絵美がつぶやいた。
「う、うん」
ちょっとうつろに真紀が答える。
「どうしたの?元気なさそうだけど」
「大丈夫、なんでもないって」
「あ、体育の水着デビューこわいんだ?」
「そんなことないって、」
「じゃあ、胸だ、スクール水着って、パットはいってないもんね」
さすがに、真紀がふくれる。
「かわいいね、真紀のふくれっ面、いじめがいがあるわあ」
「絵美ちゃんの意地悪、いいよね、Cカップで」
最近では真紀も少しは言い返せるようになってきていた。
絵美は苦笑いしながら、空を見上げた。
黒と灰色の絵の具を薄く混ぜ合わせたような雨雲が、早足で通り過ぎていく。
「今日は雨かな」
絵美は、つぶやいた。


30 :連載小説・まやかし:2008/06/23(月) 21:14:09
「おはよう」
校門の前で、俊樹が後ろから追い抜いていく。
「あ、綾瀬、おまえのファースト水着、みれなくて残念」
真紀は、俊樹の大きな声に、顔をかなり赤くしてしまう。
「そんな、プレッシャーかけないの」
絵美が、さっきまでさんざ真紀をからかっていたことを棚に上げて俊樹に抗議する。
そう、1学年2クラスの花野台中学では、体育の授業は男女別で、
それぞれ教師も男女別になっていた。
真紀にとっては、絵美と同じ授業は安心だったが、女の子と一緒の体育
そして、厳しいと評判の「いもねえ」というあだ名の若い女性教師自体
そして、これまでずっと見学してきた、体育の授業自体、恐怖の対象だった。
「じゃあね、また、体育の時間にね」
「うん、見学じゃだめ?」
「だめ、最後の水泳の時間なんだから、」
「そ、そうだね」
怪訝そうな表情をうかべる絵美の前で、真紀はちょっと元気なく頷いた。



31 :連載小説・まやかし:2008/06/23(月) 21:14:51
生きていると、こうなってほしいという願いが
ごくごくまれにではあるが、かなえられることもある。
真紀にとっては、今日がその日であった。
朝、まばらにしかなかった雨雲が
空一面に広がったかと思うと、
ぱらぱらと降り出した雨がお昼前には、土砂降りになっていた。
「でも、きっと、いもねえのことだから、やるよね、午後の体育、濡れるのはおなじだって」
クラスの女子の話し声が聞こえてくる。
〜おとといくらいから、変に身体が熱っぽいし、だるい、水に入りたくない。
 でも、見学は、水着を譲ってくれた絵美ちゃんに悪いし、でも、見学したい〜
給食の時間、他の教室から歓声があがった。
生徒同士が顔を見合わせる。担任の鈴木先生が口を開く。
「先生、食べるのに夢中で、大切なこと伝え忘れてました。」
くすくすという小さな笑い声が女子に広がる。
笑いをとれたことに満足して、先生の話が続く。
「さっき、大雨注意報がでて、台風の進路がこっちに向かっているので、
 午後には警報になりそうです。午後の授業は中止、掃除も特別になし、
 そのかわり、すぐおうちに帰ること、道草してたら承知しないからね、特に男子」
言葉は少しきついが、終始にこやかに先生が話し終えると、
どの教室よりも大きな歓声があがった。
真紀は、ほっとして、歓声をあげるのも忘れていた。




32 :連載小説・まやかし:2008/06/23(月) 21:15:52
雨が小降りになった頃、校門の前に傘の花がいくつも開いた。
真紀もパステルブルーの傘を開いた。
花のような色の傘をえらべるのも、女の子の特権?かもしれない。
「よかったね、午後遊べるね」
絵美が屈託のない表情で笑いかけてくる。
「う、うん、よかったね。」
元気のない真紀の返事に、絵美は歩きながら、真紀の顔をのぞき込んだ、
「ひょっとして、真紀・・・きたの」
絵美は、周囲に気づかれない小さな声で尋ねた。
「うん、お昼頃に」
真紀も小さな声で答える。
「やったね、おめでとう」
「これって、おめでたいことなの?すごく憂鬱で、身体もだるい」
「個人差はあるけど、なれていくから、大丈夫」
「ほんとに?」
「でもびっくりしなかった?」
「絵美ちゃんにナプキンとか教えてもらっていたから、何とか、」
小さな声でひそひそ話が続く。
「男の子は快感のうちに性に目覚めるけど、女の子のそれは不快感だって、なんかの
 本で読んだけど、真紀、ほんとにそうでしょ?」
「???」
「あ、ごめん、真紀、ひょっとして、男の子の目覚め経験してなかった?」
真紀は、恥ずかしそうに頷いた。


33 :連載小説・まやかし:2008/06/23(月) 21:16:40
「ちょっとまってて」
絵美は、戻ってくると、にこやかに真紀に微笑んだ。
「おうちによってね、ささやかだけど、お祝いしよ、」
絵美が買ってきたのは、真紀の好物のいちご大福といちごのショートケーキだった。
「絵美ちゃん・・・今日はへんなこと・・・、しないでね。」
有栖家の前で、真紀は、一瞬たじろいで、絵美にお願いしていた。
「大丈夫、ほらはいって」
絵美は、お茶を入れると、ヒーリング映像を真紀に見せた。
タンポポの春、夏の海、雑木林の秋、雪の冬
「ね、気持ちが落ち着くでしょ」
「ありがとう」
「真紀、春の映像どうだった?外人の男性ってかっこいいよね。」
その映像は、日本人の少女と外人青年が出てくる。
「そうかなあ、いかつくてこわかったけど、女の子はかわいいし、景色はきれいだった。」
その外人青年は、男性にさほど関心のない絵美でさえ、いいなあと思った存在であったのだが、
真紀の身体は女の子になっても、真紀の心までは変わっていない。
絵美は、真紀の返事にほっと安堵した。
1時間ほど時間が流れただろうか、雨が小降りになってきたので、
真紀は、有栖家を失礼することにした。
「真紀」
振り向くと、絵美に抱きすくめられた。
「絵美ちゃん、変なこと・・・しないって・・・」
「女の子になっても、真紀のこと、好きだからね。」
絵美の唇が、再び真紀の唇に重なっていた。
ひとけのない閑静な住宅街に、
肌寒い九月の雨が、雨足を強めながら降り続いていた。



34 :名無しゲノムのクローンさん:2008/06/24(火) 21:54:40
毛玉毛玉毛玉毛
玉毛玉毛玉毛玉
毛玉毛玉毛玉毛
玉毛玉年玉毛玉
毛玉毛玉毛玉毛
玉毛玉毛玉毛玉
毛玉毛玉毛玉毛

35 :名無しゲノムのクローンさん:2008/06/24(火) 21:56:25
玉毛玉毛玉毛玉
毛玉毛玉毛玉毛
玉毛玉毛玉毛玉
毛玉毛年毛玉毛
玉毛玉毛玉毛玉
毛玉毛玉毛玉毛
玉毛玉毛玉毛玉


36 :名無しゲノムのクローンさん:2008/06/24(火) 22:06:50

毛玉毛玉毛玉毛
玉毛玉毛玉毛玉
毛玉毛玉毛玉毛
玉毛玉年玉毛玉
毛玉毛玉毛玉毛
玉毛玉毛玉毛玉
毛玉毛玉毛玉毛

37 :名無しゲノムのクローンさん:2008/06/24(火) 22:10:41

玉毛玉毛玉毛玉
毛玉毛玉毛玉毛
玉毛玉毛玉毛玉
毛玉毛年毛玉毛
玉毛玉毛玉毛玉
毛玉毛玉毛玉毛
玉毛玉毛玉毛玉

38 :名無しゲノムのクローンさん:2008/06/24(火) 22:18:05


毛玉毛玉毛玉毛
玉毛玉毛玉毛玉
毛玉毛玉毛玉毛
玉毛玉年玉毛玉
毛玉毛玉毛玉毛
玉毛玉毛玉毛玉
毛玉毛玉毛玉毛

39 :名無しゲノムのクローンさん:2008/06/25(水) 05:53:01
ここは文学板じゃなくて生物板なんだが

40 :連載小説・まやかし:2008/06/26(木) 21:56:21

第8回「ドレス」

花野下駅へのゆるやかな下り坂を、母の啓子と歩きながら、
真紀は、胸一杯に不安をかかえた、検査の日のことを思いだしていた。
あの日から、もうすぐ1か月になる。豊かな緑陰をつくっていた桜の木々は、
枯れた葉を散り急いでいるかのように、散らせていた。
そして、幹のあいだから、この季節には珍しい夏のような日差しが降り注いでいる。
「よく、がんばったわね、いろいろと」
啓子がやさしい口調で、真紀に語りかけた。
「うん」
照れくさそうに、しかし、うれしそうな表情で、真紀が啓子を見上げる。
丸襟の白いブラウスは、胸元にレース飾りがあって、まだ、幼い面影を残す真紀には
よく似合っていた。その上に、ちょっと寒がりの真紀が電車の冷房に備えて、
薄いピーチピンクのカーディガンを羽織っていた。
スカートは、風のいたずらに備えて、フレアではなく、ボックスタイプの緑のチェック柄
全体に流行からはかなり離れていたが、定番のちょっと品のいい組み合わせになっていた。
意を決したように、真紀が口を開いた。
「あのね、おかあさん・・・」
「わかってるわよ、おめでとう」
「どうして知って・・・」
「ふふふ」
「ね、どうして」
「お洗濯、いつもと違う種類のショーツ」
啓子は、微笑みながら、真紀を抱き寄せた。



41 :連載小説・まやかし:2008/06/26(木) 21:57:10
あったかい・・・
晩夏を思わせる熱っぽさを帯びた空気の暑さと違う、
啓子の身体からブラウスごしに伝わってくるぬくもりを、
真紀は心地よく感じていた。
花野下駅は、谷あいに開けた、昔からの街道の町並みの中にある。
花野線の終着駅であったが、そこから住宅開発の進む花野台に向けて、
新線の工事が完了し、ちょうど、真紀や絵美の家のすぐ裏の山がくずされて、
そこに新しい終着駅となる花野台駅ができあがりつつあった。
「はやく、花野台まで電車がくるといいね」
「そうね、ひっこしてきてから、10年、ようやくよ」
啓子が苦笑した。
二人が乗り込んだ急行は、新線開業に備えて新しく作られた新しい車両だった。
二人がけの転換クロスシートが片側3つの扉間に5列、快適な車両である。
真紀が心配した冷房の効きすぎもなく、かさね着のカーディガンが眠りを誘ったのであろうか、
電車が静かに、そしてすべるように走り始めると
啓子の肩に頭をもたせかけて真紀がすやすやと眠り始めた。
真紀が、女の子になってから、甘えをさりげなく素直に表現してるように
啓子には思えた。また、そのことが母親としてうれしくもあった。




42 :連載小説・まやかし:2008/06/26(木) 21:57:50
30分ほどの乗車時間が過ぎて、真紀が少し目を開け始めた頃、電車は目的の駅にすべり込んだ。
「相変わらず、要領のいいこと」
「お母さん似だもんね」
ふたりは、掛け合いのような会話に、顔をみあわせると、どちらからともなく、ふき出していた。
その町は、昭和50年代に開発された郊外のまちであったが、
駅前は、花野下とか花野台とは比較にならないほど、にぎやかで、いろいろなお店があふれていた。
れんが色の区役所の端正な建物を過ぎると、街路樹が整った大きな道が住宅街へとのびている。
「ねえ、今日は何買ってくれるんだっけ」
「ひみつ・・・」
数分ほど歩いて、いろいろなお店がまばらになって、普通の住宅が混じり始めた一角に
そのお店はあった。外側は大きなガラス窓のショーウインドゥになっていて、
きれいに並べられた商品が、はなやかでまるでお花畑のように、町並みを飾っていた。
「ひょっとして、ここ?」
真紀がちょっとおどおどとした声で、啓子に尋ねる。
「そう、じゃはいるわよ、」
「ちょっとまってってば、お母さん、いやだって」
不思議に思って、真紀の視線を追った啓子が、納得顔で真紀に向き合った。
そこには、手書きのきれいな字とイラストで「発表会ドレス入荷」と広告してあった。
「心配しないの、もし、また、いきたいっていってもいかせません。無駄遣いです。」
「ぜったい、いかないからね、小学校低学年のくら〜い思い出なんだから」
「こっちこそ、卒業までずっと音楽2なんて、遠い将来、好きな人ができても、
 絶対、その人の前で歌わないこと、千年の恋もさめちゃうからね、」
「それって、百年じゃなかったっけ、お母さん」
「あなたの場合、千年」



43 :名無しゲノムのクローンさん:2008/06/26(木) 21:58:19
「ひどおい、それと音楽2じゃなくて、努力しましょうだからね、努力しました。」
真紀がほほをふくらませながら抗議する。
そう、真紀は、小さな頃、啓子の教育方針で、音楽教室に通わされていた。
元気に歌っているだけの頃は良かったけど、真紀は、おたまじゃくしがひらえない、
つまり、音符が読めないし、音感は父の茂よりも悪く、
その結果、歌はクラスで一二の下手さ、独唱のたびに、いじめでなく、
くすくすという笑い声がどこからかおきていた。
真紀にとって、しあわせだったのは、一生懸命のあまり、周囲の雰囲気を感じる余裕がなかったことだろう。
「帰る」
真紀にしては、めずらしく毅然と言い放つと、くるりともときた方向に向き直った。
啓子は、しまったと腕に力を込めて、真紀の肩においた。まだまだ啓子の腕力が強い、
真紀はすぐに、啓子と向き合う向きに戻されてしまった。
「だめ、真紀、小さな頃からドレス着てみたいって、憧れてたでしょ」
「そうだけど・・・」
「これまでは、禁止してたけど、女の子になったんだから、1着くらいもってないとね」
「はい、わかりました。」
しゃれた洋風のお店のちょっと重厚な感じの木の扉をあけて、真紀と啓子は入っていった。




44 :名無しゲノムのクローンさん:2008/06/26(木) 21:58:58
「いらっしゃい、あ、啓子?ひさしぶり、」
親しげに、奥から出てきたのは、母の友達らしい。
「千秋も元気そうね、きれいなお店ね、特に出窓のショーウインドウがいいじゃない」
「ありがとう、で、今日は?」
「娘にね、パーティドレスをと思って」
むすめという言葉に、少しこそばゆいような思いをしていた真紀だったが
千秋の目線を感じて、ようやく会話の中に入っていった。
「はじめまして、綾瀬真紀です。」
「ようこそ、いらっしゃい」
「可愛いお嬢さんね、きっと、お父さん似ね」
「千秋、それ、どういう意味」
「あ、ごめん、最近、私も思ったことすぐ言うようになっちゃって、啓子気になったらごめんね」
たまに出てくる母の辛口の原因は交友関係にあったんだと、真紀は納得していた。
「どうぞ、こっちへ」
千秋が真紀を案内したのは、9号のサイズ表示のあるカラードレスのコーナーだった。
1か月前までは、絶対に入ることのなかったお店、ふれることもありえなかったドレスが目の前にある。
真紀は、女の子になった喜びよりもとまどいを感じていた。
真紀の好きなパステル系の色、そして女の子が9号にこだわる理由のひとつであるデザインのかわいさ
にあふれたドレスがそこには、あふれるほどに並んでいた。



45 :連載小説・まやかし:2008/06/26(木) 22:00:14
「真紀さんは、どんな色が好き?」
さっきまで、啓子と他愛のないおしゃべりをしていた千秋が、さりげなく声をかけた。
「どの色もすてきで、すごく迷ってます。」
「ピンクじゃない、正直に言いなさいよ、真紀」
「もう、お母さん」
中学生それも3年生になって、好きな色をピンクというのは、
真紀には、それが本当のことであるだけにためらいがあった。
「やさしくて、かわいいすてきな色ですね」
千秋が真紀にやさしく語りかける。
「そうですか、ちょっとはずかしい・・・」
「いろいろな色っていうのかしら、難しく言うと、彩度、明度、色相で一番色の表情がかわるのが、
 ピンクなの、だから、その分、必ずお似合いの好きなピンクがあるはずよ」
ゆっくりと時間をかけて、真紀は、千秋のアドバイスを聞きながら、ドレスを選んでいった。
「啓子、真紀さん試着するから、一緒にね」
千秋が声をかけると、啓子も待ちかねたようにソファから立ち上がった。
3着ほどを選んで、真紀が試着室に入った。
制服、ブラウス、スカート、女の子の服に少しずつなれてきた真紀も、
ドレスとなると、さすがにどきどきしていた

46 :連載小説・まやかし:2008/06/26(木) 22:00:54
ブラとショーツだけの下着姿になった後、真紀は、ワンピースを着る要領で
身体の下にドレスを置き、足をドレスのスカート部分にとおして、
ぐっとドレスを持ち上げた。
ワンピースよりちょっと重く感じるのは、布地をたっぷりと使っているせいだろうか、
それでも、オフショルダーのデザインだから、長袖の以前のドレスよりはかなり軽いらしい。
ウエストまでもちあげたところで、真紀は、啓子にはいってきてもらった。
ウエストと背中のバンドをしめてもらい、ファスナーを上げてももらう。
肩ひもの部分をかけ終わったところで、二人で試着室用の大きな鏡に見入った。
緊張してほほを赤らめている真紀と、その横で満足げに微笑む啓子がいた。
少ししてから、表にいる千秋に声をかけた。
カーテンが静かに開く、千秋は真紀と啓子を花飾りのあるコーナーへ案内した後、
デジカメで、写真を何枚か写した。
最初は、恥ずかしがっていた真紀も、少しずつ笑顔にかわっていった。
同じ作業を3回繰り返した後、いよいよ、写真をもとに決めることになった。
「はずかしい」
真紀が顔を手で覆って、写真を見ようとしないので、啓子がその手をはらいのけて、たしなめる。
「恥ずかしがってないで、ちゃんと決めなさい」
「どれもよくおにあいですけど」
千秋が、二人をとりなすように間に入った。



47 :連載小説・まやかし:2008/06/26(木) 22:01:47
真紀が選んだのは、コスモスピンクのふりふりいっぱいのレースで飾り立てたかわいいデザイン
啓子は、ペールピンクで落ち着いた飾りっ気の全くないシンプルなデザイン
「真紀とは、センスが全然あわないみたいね」
「本当に、洋服共用できそうになくて、残念ね」
「まあまあ」
千秋が勧めたのは、パールピンクで、胸の上と裾に白いアクセントラインがはいったデザイン
で、3人別々になってしまった。
生地だけは光沢のあるサテンで、共通していた。
「今の真紀さんには、コスモスピンクのふりふりのがお似合いだけど、長く着るんなら
 ちょっと、大人っぽいのが、お外でも着るなら、ずばりピンクというより、ちょっと落ち
 着いたピンク色の方がいいですよね。サイズは、ちょっと大きいかも、まだ成長期で
 しょうし、スカート丈がロングで長いのは、一番上品といわれている膝丈にして、裾の
 白いアクセントラインの下はちょっと広めのフリルに ウエストの両側と胸のセンター
 肩ひもの上にちょっと大きめの白いリボンをつけてっと、これでどうかしら」
千秋は、パソコンにとりこんだ千秋がすすめたドレスの写真に手を加えて、真紀と啓子に画面
を見せた。
「わあ、これいいです。上品でかわいい」
真紀のうれしそうな一言で、ドレス選びは終わった。
「あと、同じ生地で髪飾り用のリボンお願いします。今は、ショートだけどロングにしたいので」
「いいですよ、用意できます。」
真紀の依頼に、千秋は快く応じた。
「上にはおるもの、自信家の真紀ちゃんには必要ないか?」
真紀は啓子の言葉にいつものようにふくれた後、依頼を追加した。
「お願いします。肩丸出しちょっとははずかしいです、」
「ボレロみたいなのでいいかしら、サテンは派手になるから、同じ色合いのツイルとかで」
真紀も啓子も満足げに頷いていた。


48 :名無しゲノムのクローンさん:2008/06/26(木) 22:06:47
「 パニエは、適当な丈のをみつくろっておきますね」
「はい、よろしくお願いします。」
答えてから、真紀は、パニエが何であるのか、小さな声で啓子に尋ねた。
「パニエって?」
聞こえていたらしく、千秋が実物を持ってきてくれた。
それは、段々になった、半透明の少しごわっとしたペチコートみたいな下着だった。
「ふふ、これですよ、ドレスとかフレアスカートの下に身につけてふわぁとした
 ふくらんだスカートラインをつくるの、」
「勉強になります。」
「じゃあ、2週間くらいしたら、お直しとボレロできると思いますので、できたら、お電話します。」
「はい、よろしくお願いします。」
帰りの電車も新型の電車で、運良くふたりともすわることができた。
啓子が真紀の顔をのぞき込みながら、尋ねる。
「楽しかった?」
「うん、でも、ちょっとてれるっていうか、はずかしいっていうか、」
「そうね、真紀、特に恥ずかしがり屋さんだから・・・」
「そうかなあ?」
「そうねえ、それにしては、けっこうお母さんに反抗してたわね」
「だって、音楽教室のこと・・・、ごめんなさい」
病弱だった頃の真紀は、物静かで、従順、啓子の言うとおりにしていた。
それが、思春期の普通の女の子のように反抗したり、いたずらっぽく笑ったり、
そのことが、啓子には、すごくうれしいことのように思われた。
「そんな元気な真紀、お母さん、大好きだからね。」
反応がないので、啓子は真紀の方に目をやった。
今度は大きな窓ガラスを枕代わりに、すやすやと眠り込んでいる真紀が、そこにいた。                              



49 :連載小説・まやかし:2008/06/28(土) 20:36:06

第9回 「戸籍」

真紀は、セーラー服の冬服の袖に腕を通していた。
絵美のおさがりの制服、ポケットにいれてくれてあったポプリが
ほのかに薫ってきて、真紀の心を少しほっとさせてくれる。
ちょっどいいぴったりの大きさ、ただ、胸まわりもぴったりなのが、
ちょっと真紀を悔しい思いにして、真紀自身が少し吹き出してしまう。
半袖の夏服をはじめて着たときのような、どきどきした鼓動はない。
 なれちゃったもんね、女の子に
独り言をつぶやきながら、真紀は、模様替えしたお部屋の
壁の大きな姿見の鏡に自分を映してみる。
活動的な白い夏服と違って、落ち着いた紺色に白いスカーフをまとった
肩までもう少しの髪の女の子が、ちょっとはにかみながらみつめていた。
 うん、結構似合ってる。
通学鞄をさげると、いつものようにばたばたと階段をおりていった。




50 :連載小説・まやかし:2008/06/28(土) 20:36:57
その日は、社会は公民の授業だった。
国民とは、国籍とは、戸籍、住民登録、熱心な教師が
判例まで引用するものだから、生徒の多数は消化不良気味だ。
帰り道、桜の枯葉をふみしめながら、
絵美が真紀に心配げに尋ねる。
「今日の授業で気になったんだけど、真紀の戸籍大丈夫?」
「大丈夫って、大丈夫だよ、ちゃんと出生届してあるよ」
「そうじゃなくて、性別、性別」
「あっ」
真紀もようやく事の重大性に気づいた。
「市役所まだあいてるよね。行ってくる、性別の変更届出すといいんだよね。」
「ちょっとまちなさいって、性別の変更届なんて、ふんなもの窓口にあると思う?」
「ない、じゃあ、やっぱり衆議院予算委員会だね。お父さんの知り合いの代議士の先生に・・・」
「もう、おばかさんね、そんなことしたら、一躍有名人よ、私、腕力に自信ないから、毎日、
 麻生君と一緒に通学してね。彼なら、真紀を守れると思うから」
「絵美ちゃん、それはいや、俊樹だと逆になにされるかわかんない」
「とにかく調べましょう、真紀の大学の先生にもお父さんから聞いてみてくれる。」
「うん、わかった。」



51 :連載小説・まやかし:2008/06/28(土) 20:37:43
同じ頃、花野台中学校の職員室でも
真紀のクラス担任の鈴木先生達が頭を抱えていた。
修学旅行に備えて、集めていた書類をチェックしていたのだが、
「綾瀬さんの、保険証の写しの性別欄」
ため息まじりに、鈴木先生は他の先生に声をかけた。
「このままだと、保険診療を受けられないですね。
 あのこを男の子とはいえませんし、お友達のを借りるわけにもいかないし・・・。」
養護の先生が心配そうにのぞき込む。
「いっそ、得意の切り貼りで、どうせコピーだし・・・」
「鈴木先生、それは犯罪ですよ。」
社会の先生が強く制止した。
「冗談ですよ、ところで、ちょっと前に成立した法律がありましたよね、」
鈴木先生が社会の先生に相談をもちかけた。
「性同一性障害者の性別の取り扱いの特例に関する法律ですね。、
 あれは使えないと思うんですが、調べます。」
法令のウェブサイトを見ながら、社会の先生は残念そうに応えた。
「綾瀬さん、独身でもちろん子供さんいないし、完全な女の子になったけど、
 中学生で未成年ですから・・・、ちょっとむりみたいですね。」
「親権者の同意があってもですか?」
「それは法律では予定していないでしょう、むしろ、望んでいた性と違う子供が
 生まれたら濫用されるから、成人本人の申し出に限ったわけです。」
「そうですか」
 職員室に、落胆の空気が漂いはじめていた。
 パソコンの画面には、さっきから法律の条文が映し出されていたが、誰も見ようとはしなかった。



52 :連載小説・まやかし:2008/06/28(土) 20:38:29
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律
(平成十五年七月十六日法律第百十一号)

(趣旨)
第一条  この法律は、性同一性障害者に関する法令上の性別の取扱いの特例
 について定めるものとする。
(定義)
第二条  この法律において「性同一性障害者」とは、生物学的には性別が明らか
 であるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)
 であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に
 適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確
 に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められ
 ている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう。
(性別の取扱いの変更の審判)
第三条  家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当する
 ものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
一  二十歳以上であること。
二  現に婚姻をしていないこと。
三  現に未成年の子がいないこと。
四  生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五  その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備え
 ていること。
2  前項の請求をするには、同項の性同一性障害者に係る前条の診断の結果並びに
 治療の経過及び結果その他の厚生労働省令で定める事項が記載された医師の診断
 書を提出しなければならない。

 ・・・・・・・・・・・・・・・


53 :連載小説・まやかし:2008/06/28(土) 20:40:34
翌日
山間部に近い、高台の花野台では、少し肌寒いくらいの朝だった。
「おはよう、真紀、ちゃんと調べた?」
「うん、まあね、アメリカやドイツでは・・・」
「???」
「自己決定権の一環として、20年くらい前から、性別変更は認められていて、
 日本でもみとめるべきだ。帰り、市役所行ってこの論文の写しみせてくるね。」
「べきだって、それ、その先生の意見じゃん、」
「うん、でも、その自由主義的人権感覚に感動したよ。」
「感動したよって、真紀、他人事じゃなくてあんた自身のことなんだよ。」
「だから、ちゃんと調べたって・・・」
絵美の剣幕に、真紀はたじろぎながらも、泣きそうな声で応えた。
「真紀当てにした私がお馬鹿さんだった・・・」
「そんな・・・・、で、絵美ちゃんは?」
絵美は、ひとつの条文を真紀に示した。
戸籍法
第113条 戸籍の記載が法律上許されないものであること又はその記載に錯誤若しくは遺漏
   があることを発見した場合には、利害関係人は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍の訂正
   を申請することができる。
「うわっ、すごい、この条文で訂正できるんだ。」
真紀が、うれしそうに絵美を見つめた。
「それがね、」
絵美は、申し訳なさそうに、もう一枚の紙を真紀に示した。
そこには、アンダーラインがしてあった。
横浜家庭裁判所審判 平成6年3月31日
  ・・・・・人の性別を本来のものから異性に変更するという重大な事項は、戸籍が維持を目的
 とする身分秩序に真っ向から対立し、その壁はあまりにも大きく、本件において申立人の性別
 「女」を錯誤と評価して、父母との続柄欄を「二男」と訂正すべき根拠は見いだせない。・・・・・


54 :連載小説・まやかし:2008/06/28(土) 20:41:54
「家庭裁判所の許可が簡単にはとれないわけ」
真紀が尋ねた。
「そう」
「ひどいよね、他人事だと思って・・・」
「そうね」
絵美は、あいまいに相づちをうつしかなかった。
「特別法も出来てるんだけど・・・」
絵美は、第3条の要件のところを指し示した。
一  二十歳以上であること。
二  現に婚姻をしていないこと。
三  現に未成年の子がいないこと。
四  生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五  その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備え
 ていること。
「成人したら、性別訂正できるんだね」
真紀が尋ねる。
「でも、真紀の場合、正真正銘の女の子になっちゃったから、四と五の条件をみたさなくなるよね、」
「え〜、そんなあ、絵美ちゃんの意地悪」
「意地悪か、そうかもね、真紀みたいな事例、法は予想していないから・・・」
絵美は、絵美にしては珍しく、力無く応えた。
「そこまで調べてくれてありがとう、やっぱり、国会の予算委員会だね。」
「それをいうなら、法務委員会だと思うんだけど、」
絵美は、力なく笑って、二人して、校門に入っていった。


55 :連載小説・まやかし:2008/06/28(土) 20:43:36
綾瀬 茂 は、電車をおりると、キャンパスに向かっていた。
山稜大学は、まだ新しい大学のため、銀杏並木も枝振りの小さな苗木が
ようやく根付いたというところである。
それでも、しっかり黄葉しているのは、年ごとに成長していく事と併せて、
大学関係者には、うれしいものであった。
医学部の研究室棟から、法学部の研究室棟は、さほどの距離はなく、
茂は、懇意の行政法の森田教授の研究室を訪ねた。
「やあ、ひさしぶり」
「おじゃまするよ、今日は、その、子供のことで相談があってな」
「まさのりくん、いや、まきちゃんのことだろ、そのうち来ると思っていたよ、
 しかし、両方に読める漢字で名付けたとは、先見の明があったね。」
茂は苦笑いした。
「戸籍だろ。」
「そうだ。」
「子供の友達が調べてくれてね、戸籍の性別訂正は無理だと、」
茂は、絵美が調べた資料を手渡しながら話を続けた。
「出生時の生物学的な性別が戸籍に記載され、特別法でも該当しないんだろ。」
森田は、うなづくと、資料に目を通し始めた。
「中学生にしては、よく調べてあるな、ただし、間性についての判例が抜けてる。」
と言いながら、森田はひとつの判例を茂に示した。


56 :連載小説・まやかし:2008/06/28(土) 20:45:39
札幌高等裁判所決定平成3(1991)年3月13日家庭裁判月報43巻8号48頁
 抗告審=許可(二男→長女)「このような典型的な男性にも女性にも属さない場合
(医学上は「間性」と呼ばれる。)、その性別を何を基準として決定するかについては、
かつては医学上においても性染色体の構成を唯一の基準としていたが、次第に性分化
の異常に関する症例報告が増え、研究が進展するに伴い、性染色体のいかんは唯一、
絶対の基準ではないとされるようになり、現在の医療の実践においては、外性器異常を
伴う新生児が出生した場合、異常の原因、内性器、外性器の状態、性染色体の構成の
ほか、外性器の外科的修復の可能性、将来の性的機能の予測等(これらの要素を考慮
するのは、外性器異常を生涯にわたってもつことのハンディキャップ及び劣等感が甚大
なものであるからである。)を慎重に勘案し、将来においてどちらの性別を選択した方が
当該新生児にとってより幸福かという予測も加味した上で性別を決定し、その決定に基
づいて外性器の形成、ホルモンの投与その他必要な医療上の措置がなされるという扱
いが定着するようになってきている。そして、このような医療の実践が社会通念、国民
感情に照らして容認しがたいほど不相当であると断ずることはできない。」

「つまり、性染色体に異常があった場合には、発育途上での性別変更はみとめられるということか」
「そうだ、家庭裁判所の決定もほぼ一貫して認めている。」
「ありがとう」
「まあ、まて、俺に考えがあってな」
森田は、少しいたずらっぽく笑うと、話を続けた。
「完全な異性になることは法は想定していない。それに、家庭裁判所の審判の場に、まだ中学生の
 真紀ちゃんを出すというのも、多感な年頃だけに、ちょっと心配だろ」
「ああ」
茂は、意図をつかみかねて、あいまいに返事した。

57 :連載小説・まやかし:2008/06/28(土) 20:47:20
「戸籍に 長男 という記載のある子が、実は完全な女性だった、性染色体がXXだという診断書
 が出た場合どうなる」
「ふつうは、何かの間違いと言うことになるな」
「そうだ、出生届の誤記、どうせ、届けは山稜大学病院の作成だろ」
「そう、俺の恩師だ。」
「ああ、飲んべえのあの先生ならありうるな」
「ありえんだろ、おい」
「ありうる。戸籍法第113条でなく、第24条を使うんだ。」
森田は断言した。

戸籍法
第24条 戸籍の記載が法律上許されないものであること又はその記載に錯誤若しくは遺漏があ
ることを発見した場合には、市町村長は、遅滞なく届出人又は届出事件の本人にその旨を通知
しなければならない。但し、その錯誤又は遺漏が市町村長の過誤によるものであるときは、この
限りでない。
2 前項の通知をすることができないとき、又は通知をしても戸籍訂正の申請をする者がないとき
は、市町村長は、管轄法務局又は地方法務局の長の許可を得て、戸籍の訂正をすることができ
る。前項ただし書の場合も、同様である。《改正》平11法087
3 裁判所その他の官庁、検察官又は吏員がその職務上戸籍の記載が法律上許されないもので
あること又はその記載に錯誤若しくは遺漏があることを知つたときは、遅滞なく届出事件の本人の
本籍地の市町村長にその旨を通知しなければならない。


58 :連載小説・まやかし:2008/06/28(土) 20:48:40
放課後、真紀は、市役所のロビーで、高島を待っていた。
あのことがあって、はじめて検査してもらったのが、女医の高島であったが、
それだけに、どこかはずかしく、すこし特殊な感情を抱いてしまう。
「おまたせ」
「あ、こんにちは、すぐ気づかなくて、すみません」
高島は、私服のスーツをきりっと着こなしていた。
「真紀ちゃんも、セーラー服がすっかりにあってる。」
高島がにこやかにほほえむと、真紀がすこしはにかみながら返事した。
「ありがとうございます。」
「さ、いくからね、身体検査くらいは覚悟してね。」
「身体検査?」
「そう、でも女子職員の人だから、大丈夫」
「はずかしい」
「じゃ、男の人だといい?」
「もっと、いやです。」
「そうよね、複雑」
高島がにっこりのぞきこむと、真紀も笑い返した。
手続きはさほど難しくなく、市民課の窓口で
高島が医師であることをあかし、高島作成の診断書の説明を行い、
あらかじめ手に入れていた訂正申請書を出すと、
真紀が恐れていた身体検査もなく、手続きは完了した。
「これからは、同じ女性同士、よろしくね」
高島が微笑みながら真紀に語りかける。
「はいっ」
いつになく元気な真紀の声が返ってきた。


67 KB
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

★スマホ版★ 掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50

read.cgi ver 05.04.00 2017/10/04 Walang Kapalit ★
FOX ★ DSO(Dynamic Shared Object)